エンジニアからみたSESはホワイトかブラックか?

日本のエンジニアリングには欠かすことのできない仕組みがSES(システムエンジニアリングサービス)です。
これは、業務委託や準委任契約にて実際に所属している会社とは別な会社のプロジェクトで業務を行う仕組みのようなものです。
派遣と同じ扱いに思われている方もいますが、指揮命令の違いなどがあるため、異なったものなのです。
しかしながら、派遣とにていることなどから違法性のある二重派遣と勘違いされてしまうケースもあり、そこだけを見てブラックだと言われることもあります。
では、本当はどうなのでしょうか?
それを解決するために、SESの契約を経験した人がなぜブラックとホワイトの両方の意見が乱立しているのかを解説していきます。

まずは前提知識としてSESの詳細を解説!

SES(システムエンジニアリングサービス)は少々複雑な仕組みとなっています。
SESと派遣の違いは様々ありますが、最も違う点は指揮命令系統です。
SESの場合、所属している会社とは別な会社で作業を行ったとしても指揮命令系統は所属している会社にあります。
そのため、一般的には所属会社の監督者的な立場の人が現場で指揮を取る必要が出てきます。
ただ、この指揮命令はどこからの指揮命令が該当するのかは明確に決めることが難しいため、現場での判断に委ねられてしまっている傾向があります。
派遣社員と同じように現場での指示に従って何もかもの業務を行わなくてはならないという状況も見受けられるので、そこは行政指導のような形で徐々に改善していく可能性はあるかもしれません。
しかし、業務内容的に何かを行うたびに所属会社に確認を行っていたら作業が進まないことは確実です。そのため、一般的にはある程度のところまでの作業指示は行っても良いような状態が存在しています。
他にも派遣契約は法律によって二重派遣が禁止されていますが、SESでは商流という仕組みあり、請負いの契約のような下請けが可能な状況のため、協力会社が間に挟まったようなビジネスモデルも可能となります。
この部分は、派遣契約に置き換えてやってはいけない法律に抵触していることと思われがちですが、契約の形態が違っているため、法律に抵触はしていないのです。
このようにSESというのは派遣契約とは違い、工事現場の下請け会社がいるようなイメージで捉えていただくとわかりやすいと思います。

SESがブラックになる理由はこれ!

では、SESの仕組みがなんとなく頭に入ったところで、SESがブラックだと言われるのはなぜか解説していきます。

SESの仕組みや法律をエンジニアが理解していない

まずはこちらの法律の観点からですが、派遣契約と一緒に考えてしまうことで、法律違反なことを行っていると誤った認識を持ってしまい、法律違反のNGなことを行っていると判断されてしまうことがあります。
これは、単純にエンジニアがSESの仕組みを理解していない事によって起こってしまうので、まずは理解度を深めることが必要となります。
しかし、SESの仕組みは少々複雑なため、専門的な人以外は理解するのは難しいかもしれません。
そこは法律を含めて、SES業界としてももう少し分かりやすい状況になると良いのかもしれません。

SESと派遣を間違えている

派遣契約とSES契約は会社から人員を別な会社に送るという視点では似ているため、よく間違われることがあります。
しかし前述どおり、派遣契約とSES契約では法律的観点でも異なっており、派遣契約ではだめなことがSES契約では問題ないと解釈されるものもあります。
そのため、ここがごっちゃになってしまうと、ブラックと判断されてしまうのです。
ここも自分がどのような契約でその現場にて作業を行っているのかをしっかりと把握していれば防げることです。

給料が安い。その理由が会社の搾取であり自分にないと思っている

SES業界ではよく給料が安いという話を聞くことがあります。
しかし実はこれは大きな間違えです。
会社の経営視点で見ると、SESのエンジニアは正社員のエンジニアよりも高い報酬を支払っています。
そのため、SESで働くエンジニアが安月給ということが起こるのはこれだけで見るとありえないのです。
ではなぜ起こるのでしょうか?
それは主に2つで解決します。
一つは商流の問題で、もう一つはエンジニアが自分の市場価値を勘違いしていることです。
商流というものは前述させていただいたとおり、協力会社が間に入ってマージンを搾取することです。
これは単純に紹介料のようなイメージで捉えていただければと思います。
これが起こる原因は、業界の慢性的なエンジニアリソース不足にあります。
エンジニアが足りないから商流の仕組みを使ってエンジニアを集めてくる必要が出てきます。
これにより、集めるだけの役割が誕生してしまうのです。
ただし、この金額よりも大きな要因を締めているのはエンジニアの自分の市場価値を勘違いしていることです。
エンジニア業界は今現状は圧倒的売り手市場です。そのため、エンジニアが有利な単価で仕事を獲得できる可能性が高い状況にあります。
しかし、そのような仕事は誰でもエンジニアになれば獲得できるわけではありません。
言ってしまえばしっかりとした経験を積んだ一部のエンジニアが売り手市場の中で有利な立場にいるのです。
エンジニアになりたての人や、スキルを身につけるために努力を積み重ねなかった人は、売り手市場であっても有利な立場になることは基本的にはありません。
しかし、インターネットなどの情報からエンジニアの市場価値が高いような情報が乱立しており、勘違いするケースが出てきているのが現状です。
また、会社が負担している社会保険料の仕組みを理解していない人もおり、周りで活躍しているフリーランスの報酬と自分の給料の差をみて安いからブラックだと思ってしまう人もいます。
フリーランスは年度末に確定申告によって税金をまとめて納付するので、一見高報酬に見えますが実は違うのです。

SESで参画した現場がブラック企業だった

SESの会社に所属して参画した現場が高稼働であったり、扱いが酷いということはまれにあります。
これはIT企業のあるあるで、特に制作会社や受託会社、ゲーム会社で起こりがちな現象となります。
制作会社や受託会社では、主にITスキルを保有していない会社からの依頼事を一括でいくらという金額にて引き受けることで仕事が発生します。
その仕事の引受金額は、見積もりの段階で人件費をベースとして算出された金額となってます。
そのため、想定以上の期間を制作に要してしまった場合は、人件費によって引き受けた金額を超えて赤字となります。
なので、何が何でも引き受けた期間までに終わらせて納品することが会社存続の必達事項となるのです。
となると、稼働が上がりやすいのはもはや言うまでもありません。
また、ゲーム会社などでも稼働が上がりやすい状況は起こります。
それがなぜかというと、ゲーム会社の場合はユーザーに向けて●月●日発売と宣言して予約などを開始することがあるからです。
これも制作会社と同様に納期が決まっているため、何が何でもそこに間に合わせるということが必要になります。
そのため、高稼働な状況や扱いが酷いということが起こるのです。
しかし、近年ではそのような環境も改善されつつあります。
インターネットにゲーム機が接続されたことで一度発売したゲームを容易に修正することが可能になったり、好景気によって企業の体力があること、制作や受託の会社が引き受ける金額が上昇していることにより、デスマーチのような状況はあまり起こらなくなってきました。

SESがホワイトと思う人はこういう人!

ここまではSESがブラックだと思う意見に関して取り上げてきましたが、もちろんSESがブラックではなくホワイトだと思う人もかなりの割合で存在します。
では、SESがホワイトだと思う人にはどのような特徴や意見があるのでしょうか?

自分のスキルをしっかりと把握している

SESをブラックだと思っていない人は、自分のスキルをしっかりと把握している人が多いです。
自分のスキルが今の世の中の市場価値だとどれくらいなのかを把握することで、もらっている報酬の妥当性がわかるようになります。
市場価値がわかれば、自分は次のステップに進めば更にこれくらいの価値が上がるということもわかるようになり、SESで自分が進むべき方向が明らかになります。
自分のスキルと市場価値がわからないままだと、自分の価値よりも高い水準の報酬を求めてしまい、良くない方向に進むことにもなりかねません。
まずはしっかりと自分のスキルを把握して、それを伸ばすためにはどうするか?どうやったら次のステップに進むことができるかを把握しながら現場での経験を積んでいくことが必要なのです。

会社が支払っている税金や保険料、福利厚生の仕組みを理解している

所属している会社から受け取る報酬が少ないという話はよく聞くことです。
これにはいくつかの要因がありますが、比較する対象がフリーランスで活躍している隣の席の人とかだと税金の仕組みを理解していないことによってギャップが生じている可能性があります。
前述通り、フリーランスは給料でいう総支給の報酬をもらい、年始付近で確定申告にて税金等を納める仕組みとなります。
社員の場合は毎月それが会社によって天引きされた報酬額となります。
そのため、毎月の受け取る金額だけで考えると大きな差が生じるのです。
それ以外にも、会社は従業員の雇用を安定的に確保するために、福利厚生を充実化させたり、会社を存続させるための運転資金を必要とします。
このことから、どうしても社員としてとフリーランスとしての報酬額には差が生じてしまうのです。
しかし、フリーランスになった場合は、現場が決まらない状況では1円も稼ぐことは出来ない反面、社員であれば会社が負担してくれることになるため、ある意味保険のような一面もあるのです。
この保険料がフリーランスと社員の大きな違いとも言えるわけです。
そこをしっかりと理解している人は、毎月の報酬額だけで判断していないため、SESに対しての好意的な感情が強いのです。

SESがスキルを高める最高な環境だと思っている

SESは短期間で複数の現場を経験することが可能なほぼ唯一の手段です。
自社サービスのみを経験している人は、自社のことしかわからずに蓋を空けてみたらかなり出遅れた環境での仕事だったということもあります。
それが、SESであれば複数の現場を短期間で経験することが可能なため、より高度なスキルが獲得できる現場へのステップアップを行うことが可能となります。
また、エンジニアであればPHPだけを学ぶということも可能ですし、複数言語の実績を積むようなこともできます。自社であれば、開発言語を変えるタイミングはリプレイスは新規サービスの立ち上げくらいしかありません。
しかし、1つの会社に所属しつつ複数の現場にて経験を積むことが可能なSESであれば、可能なことなのです。
それに気づき、様々な現場を経験してスキルを高めているエンジニアはSESにはたくさんいます。
1つの現場に長くいることも良いですが、それだとSESの最大の魅力が活かしきれない可能性もあります。
なので、優秀な人ほどたくさんの現場を経験している傾向があるのです。
ただし、半年以内で現場を変更すると経歴上でなにか問題があった人という印象を受けてしまう可能性もあります。
8ヶ月~12ヶ月のスパンで現場を変更する、もしくは現場は同じままでプロジェクトを変えるのがSESのスキルアップの鉄則です。

現場での評価が高く、スキルを高めることができている

SESでは現場の評価によって対応可能な作業の範囲が異なることはよくあります。
SESでの現場常駐はいわば転校生のような存在で、はじめからたくさんの仕事を任されるわけではありません。
現場によってはSESの人たちに任せれる仕事を限定的なものにしている場合もあります。
しかし、実績を積んで現場の方からの評価を勝ち取ることができれば、その状況は変わる場合があります。
SESで長く仕事を行っている人の殆どは現場での評価を勝ち取って自分のコントロールすることが可能な仕事の範囲が他の人に比べて多い傾向があります。
そのためにはエンジニアとしてのスキル以外にもコミュニケーションスキルのような対人に与える影響力を身に着けていく必要があるのです。

SESでブラックと決めつける前にすることはこれ!

SESがブラックかどうか、世の中の流れの中で決めつけるのは良くないですが、それでもSESエンジニアを会社のコマのように使い捨てる企業も中にはいます。
そのせいもあり、SES業界=ブラックというレッテルは今でも色濃く残っている状況です。
SESがブラックかどうかは勝手な印象で決めつける前にまずはこちらの内容を確認してみましょう。

1.自分にはエンジニアとして複数の会社で通用するスキルがあるか?

SES業界はコミュニケーションを含めたスキルとスキルシートに書くことのできる実績がほぼ全てとなります。
これがあるかどうかで無ければブラックかどうかという話をする以前に、スキルを身に着けていく必要があります。
スキルが身についていない状態でSES業界がブラックだというのであれば、それはスキルが無いからできる範囲が少なく、結果一般的なプロジェクトに入ることできないのは致し方ないことです。

2.市場価値は適正なのか

エンジニアは様々なスキルの総合的判断で市場価値がどれくらいかおおよそ算出することができます。
コーディングのスキルから、設計を含めた総合的な開発能力はもちろんですが、プロジェクトを前進させるためのコミュニケーション能力も市場価値に大きな影響を及ぼします。
自分はコーディングスピードが早いから一流だ!という感じでは、総合的な市場価値は高くならない可能性があるということです。なぜなら、コーディングのスピードだけ早くても、その他のところができなければ意味がないからです。
また、近年エンジニアの市場価値は上昇傾向にあります。そのため一流のエンジニアになれば上限がないと思えるような価値がつくこともあります。
しかし、市場価値が上昇傾向にあろうと、スキルや経験値が低い人の価値は上がっているわけではないため、そこはしっかりと自分の適性価値を把握するようにしましょう。

SESでスキルを磨き、SESのホワイトへ!

色々話しましたが、要はスキルを向上させればSESでブラックだという判断はなくなるはずです。
ものすごく市場価値の高いエンジニアになれたのにも関わらず、ブラックだという環境の要素が残っていれば、それは所属会社が本当にブラックだったということになるのですが、その前に一度自分の適性価値が本当に正しいのかを調べてみてください。
そして市場価値を高めるためにスキルを磨き、その結果よりスキルアップにつながる現場へ行くことができるようになります。
その好循環を作り出すことができればSESでの活躍は間違いなしです。

まとめ

SESは法律上の観点で派遣と間違えられやすく、また様々な改善余地もある仕組みだと思います。
また、今のIT業界ではなくてはならない仕組みであり、その仕組を活用してエンジニア自身がスキルを高めていくことができるというメリットもあります。
ぜひSESの仕組みを上手く活用して、スキルを獲得して市場価値を高めていける動きをしてみてはいかがでしょうか?